FFP
今更ながら、FFPに言及。
散々繰り返されてる話題ですし、どんな制度なのかはもうご存知ですよね…?
物凄い単純に言うと「赤字は無しで頼む」ってルールです。
では本題。
◼︎なぜ必要なのか?
サッカーバブルが始まるまで(〜95年前後まで)は、スペイン2強のソシオ(ファンクラブのようなモノ)に代表されるような、「現地のファンで収益を上げる」構造になっていました。
そのため、比較的謳歌的な…イタリア勢に代表されるように、オーナーのポケットマネー経営でも黒字〜微赤字で済んでいました。
ここから95年の「ボスマン裁判」以降、急速に経済のルールが変わっていきます。
主に3つあって「CL分配金」「テレビ放映権収入に伴うセルフブランディング」「スポンサー収入」です。*別途解説。
そして、それについていけたエリートチームが、ボスマン裁判により高騰した、選手の移籍金、年棒を支払い、ついていけなかったチームは、オーナーのポケットマネーor借金で補填…という構図になっていきました。
そして補填仕切れないチームは破産していき、ここらで一定の歯止めが必要だよね、という事でFFPが必要だという流れになった訳です。
◼︎収益構造の変化の確認、解説。
1、CL分配金収入
まずここで一つ目の分岐点が来ます。
CLベスト16以上に残れるチームとそれ以外で、明らかな格差が出始めます。
CLに出場しているというブランドでのスポンサー収入と、CLのUEFAからの分配金で、「出場出来るか否か」で、年間予算に最低でも30億以上の差が出ます。
当時、ジダンの移籍金記録で100億なんてぶっとんだ数字を刻んだりもありましたが、これはマドリーの特殊事情(膨大な土地を売ったり、ペレスの信用取引で銀行から融資を受けたり)があって可能になった側面が大きく…まあオーナーポケットマネーのハシリではあるんですが。
ペレスの凄い所はこれを借金のままにせず、ペイして利益まで上げてしまった事です。
そういう利益を生む構造を作らず(作れず)、投資ばっかして(成績が出ず)借金を増やしまくって首が回らなくなったクラブが05年辺りにちょいちょい出てきます。
リーズ・ユナイテッド、ボルシア・ドルトムント、バレンシア、フィオレンティーナ、デポルティーボ・ラコルーニャ等ですね。
実はこの辺でヤバい兆候はあったのです。
逆に利益を生む構造を作れた、レアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル等のクラブが、鉄壁の競争力のあるクラブとなりました。
2、テレビ放映権収入
奇しくも、中田英寿さんがイタリアに行く前後から、「スタジアムに行かなくても楽しめる」「欧州以外の地域でも観れるようになる」事が出来るようになります。
これにより、今までのファンの利便性アップに加えて新規ファンの獲得、普及に多大な影響を及ぼします。
そして、放映権料の高騰へ繋がります。
…が、これはまあ後(06〜)の話し。
まずは、セルフブランディング。
新たなファン獲得により、グッズ収入もチケット収入もテレビ放映権収入も上がる事が分かりました。
かと言って、そのテレビ放映権をいきなり他国で買ってもらえる訳はないので、「売り出し(マーケティング)」をする必要があります。
一番の強い売り出し文句は「競争力のある(強い)リーグである事」…要はCLで結果を出しているチームがいるリーグである事です。
その上で、アメリカ、アジア遠征などを行い、現地の人に観てもらい、騒いでもらえれば、「あのチームを観てみたい!」という層が拡大し、ファン獲得に多大な影響を及ぼします。
そしてグッズ収入、スタジアム収入、スポンサー収入へと繋がっていきます。
ここが、レアルとユナイテッドが強かった所で、付加価値をつけて売り出しました。
レアルは銀河系タレント集団を前面に出し、現在最高の選手達を見る楽しみを提案し、サッカーを知ってる人&知らない人、両対応出来るアプローチを取りました。
ユナイテッドはカントナから続く7番の系譜のブランドと、99年CL決勝に代表される劇的な試合が多い事を利用した「夢の劇場」と名付けたスタジアムの聖地化です。
バルセロナもクライフイズムを筆頭に、「哲学」を前面に出したブランドイメージで他との差別化を計りました。
このようなアイコン化と、基礎の競争力が相まって、世界中にファンを増やしていったのです。
3、スポンサー収入
上記ブランディングが上手くいったチームはコマーシャル効果が高いので、スポンサー収入も莫大な金額で取引されるようになりました。
ここに部分的に乗らずに、ユニフォームにスポンサー名を入れず「ソシオのためのチーム」として活動していたバルセロナが、それを曲げてしまったのは残念としか言えません。
スポンサー名が付いていない事によるブランドイメージが無くなり、せっかく差別化していたものを無くしてしまいました。
もう一度同じようなイメージを作るのはおそらく不可能だと思うんですけどね。
◼︎上手い事やれなかったらどうなったか?
セリエAになります。
…順を追って説明します。
1、セリエAの場合
成績が良かった05年までは順調でした。
…クラブの半分以上は借金経営&フィオレンティーナのような事例はありますが。
しかしながら、かの有名な八百長スキャンダルから、目に見えて凋落がスタートします。
マーケティングの失敗、オイルマネーの誕生など外部的な側面もあったにせよ、イタリアは内部が終わってます。
まず八百長ですが…その後の煮え切らない対応(しかも最近、時効で罪は無効とかって判決が出た。イタリア人以外誰も納得しないんじゃね?)と、不透明な罰則規定(コンテの処分の理由が、一人の選手による疑惑発言のみ。信憑性はほぼ無かった)により、八百長そのものより、それを上手く処罰、管理出来ない事が証明されてしまいました。
理研かっていうね。
さらにそれより根深いのが、スタジアムの治安とウルトラスと会長の関係。
新会長はウルトラスの代表のとこに挨拶に行かなきゃいけない、行かないとスタジアムで暴れる…とかいう、東スポレベルのネタが跋扈するレベルで、マジ終わってます。*スクッリがウルトラスをなだめたりした件があったように、一定の信憑性がある。
イングランドの悪名高きフーリガン達は、00年代前半に各クラブで徹底して取り締まり、追放しました。
スペインでも、個別IDによる(ソシオに一度でも登録した事があれば分かるようになっている)取り締まりで、問題を起こした人は徹底追放しました。
イタリアだけが、暴力の歴史が残っています。*ユベントススタジアム以外。
自前のスタジアムではない*ため、これ以上の警備強化が出来ない(という理由で逃げてる可能性も高い)のは分かるが、最近まで全く改善の目処が立たなかった。
*市の持ち物で、入場料収入の何%か払っている。
このため、増築出来ない、警備強化が出来ない(クラブは借りている扱いのため)、入場料収入はハネられてるで、最悪の環境になっています。
最近ようやく、ミランとナポリが新スタジアム建設(予定)を発表したんで、少ーしだけ希望が見えました。…が、手遅れ感満点です。
これから収益確保して、競争力上げて…なんてやってる10年間で、プレミア&ドイツはもう追いつかないとこまで行き、放映権収入の改善の可能性が見えるリーガもまた遠くへ…となりそうです。
プレミアはホームグロウン導入でしくじれば分かりませんが、明らかに競争力低下すれば改めるでしょうし、ドイツは相変わらず鉄壁です。
ドルトムント借金地獄から学んだ国内規定のおかげで、無茶な金遣いは出来ないですし、バイエルンは3冠からのグアルディオラ招聘で、サッカーの質向上とブランド強化で完璧。
協会の影響力も強いので放映権の問題も起こらないなど、隙がなさすぎです。
…脱線した…。
とにかくイタリアは外に対するアプローチの問題より、国内での適当さが酷すぎて終わってます。
暴力=情熱ではないですし、不特定多数にアピールするならばもっと文化的にならなければいけません。
いつまでローカルな方法で運営しているのでしょう?
愛される地元の名産で終わるか、世界標準の商品となるかの分岐点にいます。
2、リーガの場合
放映権収入以外は、まあ…順当です。
*当然、半分以上は借金運営。
放映権収入は、スペインという特殊事情もあって(言語が何個もある通り、スペイン自体が一枚岩じゃない)、クラブと個別で契約しなくてはならないので、放映権をほぼ独占している2強とその他の収入バランスが取れなくなり、リーガの魅了低下と、破産クラブの頻出が問題になりました。
ここはFFPのおかげで解決策が見えたという特殊事情が面白いです。
収入=支出にしなければならない。
そのため、リーガ全体の魅了を上げて放映権を売る方が儲かるという方向で各クラブが一致しました。
どういう事かと言うと、レアルだけ観たい人より、レアル、バルセロナを観たい人のほうが母数が多い。
さらにレアル、バルセロナだけよりも、アトレティコを加えたほうが観たい人が多い。
ファンが多いチームを増やしたほうが、結果的にそれを観たい人は増えるのです。
言い換えれば、2強寡占のつまらないリーガの限界が見えていたんですが、今までであれば、自分の利権(独占交渉権)最優先でまとまっていなかったでしょう。
…とはいえ、レアル、バルセロナは今までと同額は保証されているようであったりと、手放しで喜べる、透明性ある分配方法なのかは疑問ではあるんですが…。
それを踏まえても、下位チームに資金が行き渡るようになった事は良い事です。
サッカーの質は間違いなく世界一(技のリーガ、パワーのプレミアが今の世界一。ここに日本人選手がほぼいないのは偶然じゃない)なので、行き当たりばったりのラテン文化を何とか封じこんで、リーガ全体が浮き上がって欲しいと願ってます。
◼︎まとめ
いつも通り話題が散らばりましたが、FFPはアリです!
場当たり経営な国(イタリア、スペイン、フランス)と、国を挙げてサッカーをやっていこうとする国(イングランド、ドイツ)が共存する、多様性ある欧州の中で、一定の実効力を持ってやれる方策は、これがベストなのではないでしょうか?
本当はMLBのぜいたく勢を導入するのがベストなんです。
*規定の選手年棒額を設定し、それを超えた場合は超過分を協会に払い、そこから再分配する制度。
そうすれば、金を使いすぎるクラブがあっても下位クラブは恩恵を受けれますし、トップオーナーはやりたい補強が出来てご満悦…となるはずです。
マンスールレベル(個人資産が「兆」)をどう扱うかは難しい問題ですけど。
まあ新ルール導入は現実味がなさすぎですね。
とりあえずFFP導入で、各国とも利益を上げる事を真面目に考え始めたので、効果は出始めています。
下剋上のやり方はアトレティコやドルトムントが見せてくれましたし、RBライプツィヒという、レッドブル直下のチームがブンデスリーガ2部で新たなアプローチを見せてくれています。
一定の予算でもって、野心を見せてくれるチームが出てくる事を楽しみに、そしてそれが許される財務状態に改善して欲しいです。
まずは、ベンゲルさんや、モウリーニョさんが言っているように、有形無実化せず、確実にFFPを守らせるようにしていく事をして欲しいと思います。