「夢の劇場」の凋落。
分岐点に来たユナイテッド。
栄枯盛衰の激しいサッカー界で、なぜ監督達が「時間が必要」だと繰り返し訴えるのか?を改めて書きたいと思います。
■栄枯盛衰
ここ20年でも…
リーガバブル(98〜02)に沸いた、バレンシア、デポルティーボ、セルタ。
オイルマネーに押し流された、リヴァプール、リーズ、ニューカッスル…。
そして現在のミラノ2強に至る通り、一時の栄華を極めても持続する事は容易ではありません。
しかしながら、その逆風から復活を遂げたチームもあります。
そこから学んでいくために、そちらを見ていきましょう。
●復活したチーム。
ドルトムント、レヴァークーゼン、ユベントス、ナポリは、一時の低迷期を乗り越え、オイルマネードーピングをする事なくトップレベルに帰って来ました。
明暗を分けたのは何か?
「監督」と「チームカラー」です。
■チーム作り
本田がミランディスりで何を言っていたか?
「監督批判」と「クラブ批判」です。
まさにこれ。
以下理由を説明…
●監督の役割
チームスポーツでは、バラバラに自由にプレーしていていては勝てません。
例えば開始直後に被弾したら、引いて守るのか?、点を取り返しに前に出るのか?を共通化しなければ、チームとしてパフォーマンスは上がらない。
究極的には、そういう細かい部分を「共通化」する事が監督の役割です。
当然それは簡単な事ではありません。
選手は毎年入れ替わるし、資質的に不向きな選手もいる。
そういう「調整期間」を通して、チームとして一つにまとまっていく訳です。
ドルトムントはクロップを、ナポリはマッツァーリ、ユベントスはコンテを基準として来ました。
レヴァークーゼンは2頭体制で、継続的な環境を作っていた。
つまり「チーム哲学」とは、本来「監督が作る」モノなのです。
そのための時間が必要だという事が、監督が口を揃えて言っている事なのです。
■基準はどこにあるのか?
安定したチームを構築したいのならば「監督を変えるべきではない」事が分かりました。
しかしながら、こんな事は皆んな分かってるんです。
なぜサポート出来ないのか?
そこには別の「ファンの基準」が存在しているからです。
●哲学という名の「チームカラー」
チーム名を聞いて思い浮かべるサッカー…すなわち、バルセロナならパスサッカー、ユナイテッドなら最後まで闘う泥臭いサッカー…常勝チームには=スタイルとなっているモノがあります。
これがどこで生まれるのかと言うと「黄金期のサッカー」です。
自分達がファンになった、一番強かった時代のサッカーが「基準」となるのです。
つまり、このファンの思う基準から大きくズレた哲学を持つ監督は「嫌われやすい」のです。
これをフロントが埋めなければなりません。
●継続か改革か?
ユナイテッドはずっとファーガソン監督でした。
「ファーガソンの哲学」=「チームカラー」で、そこに異論を挟む余地すらなかった。
今は「ファン・ハールの哲学」≠「チームカラー」なのです。
ここに摩擦が起こっているという訳です。
これを越えるための方法は二つあって…
1、ファーガソン時代の哲学に近い監督に変える。
2、新監督を全面バックアップし、新体制が結果を出すまで粘る。
この二つです。
…もうファーガソンはいないのです。
ユナイテッドサポーターはこの事実を受け止め、目先の勝敗の先の「基準」を見る必要があります。
■今こそ問われるフロントの思想。
ファーガソン後のユナイテッドを改めて振り返りながら、どういう狙いで監督を招聘してきたのかを見ていきましょう。
●サッカー界の巨人が去り、「ジーニアス」に引き継ぎ。
これは上記で言う1です。
ジーニアスのサッカーは堅守速攻を基準とした非常に実直なモノで、ファーガソン監督の「基盤」もそのまま継承していました。
しかしながら、監督の「器」が前任者に及ぶべくもなかった。
発言に余裕はなく、実直なサッカー以外の引き出しが無かった。
さらには、デイビッド・ギルを失った事による移籍のパワーバランスの低下により、見るも無残な獲得選手と価格を叩き出しました。
それらを鑑みて、次の監督は「ビッグクラブのプレッシャーに負けない経験のあるネームバリューのある監督」という事で、ファン・ハールに白羽の矢がたったのです。
と同時に、「個性のある監督」であるファン・ハールをあえて招聘した時点で、上記で言う2にシフトしたのです。
●満を持してファン・ハール
その狙いは成功し、夏の移籍でのイニシアチブを取り戻し、硬直化したチームに変化をもたらし、ノルマだったトップ4入りを果たしました。
さらに今年、マルシャルやデパイ等の先を見たユナイテッドらしい原石を獲ってくる補強と、シュバイニーのような世界トップクラスの選手を連れてくる事が可能となりました。
…ここまで見て分かる通り、ファン・ハール招聘には確かな理由と効果があったのです。
そして今年、満を持して「独自の色」出し始めたファン・ハールさん。
そこにはユナイテッドサポーターが「哲学」としていた「個が輝く泥臭いサッカー」はなく、「淡白にバランスを重視した現代的なチーム」がありました。
この不満が連敗を機に噴出したのです。
●次の選択
ここで、表題の「フロントの思想」が問われます。
このまま改革するのなら、強い意志でファン・ハール政権継続をバックアップすべきです。
ファーガソン時代に回帰するなら、まさに正当後継者であるギグスにに引き継ぐか、個が輝ける戦術を持った監督(クロップ、アンチェロッティ、マルティネス)を招聘して欲しい。
一時的に勝つためだけに、グアルディオラやモウリーニョを呼ぶ事は(個人的には)歓迎できません。
当然、ここは見ている皆様の個人の好みで変わるものなので一概には言えません。
それでも一つだけ確かなのは、選んだなら覚悟を決めて「相応の時間(3年以上)」を与えて欲しいという事です。
■まとめ
安定したチームを作るには相応の時間が必要です。
「ファーガソン時代を引き継げる監督」「改革していく監督」の両方を試した今こそ、次の展開をどうするのか?
難しい局面ですが、しくじるとミランのような未来へ向かってしまいます。
短期的な結果に振り回されず、その先を見たプランが今問われています。
●後書き
長らく「ファーガソンユナイテッド」を見てきた筆者としては、やっぱあの時代を継承する方向にシフトして欲しいなーと思ったサーの誕生日でした。
正に「夢の劇場」だったオールドトラフォード。
また起きたまま観れる「夢」を体験したいですね♪